轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
宇乃はそのまま坐っていた。玄察の話しを聞いているあいだに、(話しの内容とはかかわりなく)甲斐の姿がありありと眼にうかぶように思われた。酒井邸の出来事が、公表されたとおりであるにせよ、裏に隠されたしんじつがあるにせよ、いまの宇乃にとってはさして関心はなかった。宇乃は早くから、甲斐がなにごとか為そうとしていたのを知っている、甲斐は多忙で、話しあう機会もそう多くはなかった、二人だけになっても、政治向きの話しなどはしたことがない。けれども、十一年このかた見たり聞いたりしたこと、慶月院のようすや、甲斐の身辺に起こったかずかずの変化は、甲斐がなにごとか為そうとしている、ということを明らかに示していた。
――それが三月の出来事になったのだ。
伊達家の安泰。長いあいだ禍のたねであった一ノ関が除かれ、伊達六十余万石と、多数の家臣たちの将来が安全になった。もしそれが多年の念願であったのなら、どういう死にかたをしようと、世評がどんなに悪かろうと、甲斐にとってまったく問題ではないであろう。
「――おじさまははれがましいことや、際立つようなことはお嫌いだった」
宇乃はそう呟いてから、ふと、自分が方丈の中に独りでいること、玄察は戻って来そうもないことに気づいて、そっと立ちあがった。