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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
と甲斐は云った、「殿までがさようなことを仰せられては、家中の疑惑や臆説をいっそう強めるばかりです、どうぞ、申上げたことをよくお考えのうえ、今後はいかなる風聞にもお心を迷わされませぬよう、繰り返して、固くお願い申しておきます」
綱宗の表情もおちついてきた。甲斐の言葉をほぼ納得したらしい、眉をひらいて、ではこの話しはよそうと云った。
「周防も原田を頼みにしているようだ、詳しいことは云わなかったが、涌谷と原田と自分が生きてある限り、六十万石は安泰であると思ってもらいたい、と申していた」
「それもお忘れ下さい」と甲斐が遮った、「御家の御安泰を護るのは家臣ぜんたいで、特にたれかということはございません、さような差別はないということを、お忘れなきよう、お願い申上げます」
そうして、綱宗がその意味をも了解したと認め、よろしければこれでさがらせてもらいたい、と云った。
綱宗は良源院を呼んでもう少し飲もう、と云いかけたが、甲斐のようすを見て、いや、と首を振り、ではさがって良源院と二人で飲むがよかろう、おれはもう酔ったようだ、と云い、庇厨子の手筥の中から、一枚の紙を取って、「これを読んでみろ」