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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

「それがどうした」と男は冷笑しながら云った、「刀を見るぐらいのことは、云われなくとも知っている、だが、刀は取替えることができるんだぜ、辻斬りをした刀を、そのまま差しているようなばかは、それほどたくさんはいないんだ」

新八は頭を垂れた。

女がそばから、おとなしくいきなさいよ、と云った。いけばわかるじゃないのさ、おとなしくいくほうがいいわよ、と女が云い、目明しふうの男が、手数をかけるな、立たねえかと云った。

――罰だ、罰だ。

いいざまだ、と新八は思った。

同心ふうの男が、繩は掛けないから神妙にしろと云った。三人は新八を前後からはさんで、二階をおりた。刀は二本とも、目明しふうの男が持ち、新八はまる腰のままで、外へ出ると、提灯を持った男が先に立った。

「もう白むころだな」と同心らしい男が云った、「霜がおりてる、今年は少し早いようだな」

新八は足ががくがくした。

調べられたら、どうしたって本当のことを云わなくてはならない。道場の金をごまかし、あんな場所で遊んだことが知れたら、みんなはなんと云うだろう。どう思うだろう。新八は息が詰まりそうになった。

石川や野中たち、特に、島田市蔵のするどい侮蔑の眼が、まざまざと見えるようであった。