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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

玄四郎は頭を垂れた。

おみやは「云ってくれ」と繰り返し、彼はじっと頭を垂れていた。おみやはたしかに人が変った。初めに会ったときの、多情多弁な女ではなくなっている。自分で自分を素裸にするような、告白のしかたでもわかるし、顔つきまでが違ってみえるようだ。

――信じても大丈夫だろうか。

玄四郎は迷った。おみやの変化が動かないものかどうか、誰にも証明することはできないだろう。黙っていれば間違いはない、けれどもその「証書」の誘惑はあまりに強く、それを手に入れたばあいの、大きな価値を考えると、みすみすこの好機を失う気にはなれなかった。

――よし、やってみよう。

もしも間違ったら、自分がその責任をとればいい、思いきってやってみよう、と玄四郎は心をきめ、では、と頭をあげた。

「では話しましょう。私も隠さずに話しますから、聞いて下さい」

おみやは眼で頷いた。

玄四郎は自分がもと原田甲斐の家従で、本当の名は中黒達弥というのだ、ということから話しだした。おみやは身動きもせずに聞いていた。玄四郎は気がつかなかったが、おみやの受けたおどろきは、よほど深く、痛烈なものだったとみえ、蒼ざめた顔は硬ばったまま仮面のようになり、眼は焦点を失って、二つの暗い穴のようになった。