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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

と帯刀は笑った。

宇乃は「まあ」といって羞み笑いをし、茶とか菓子とか、食事などの意味である、と答えた。帯刀は頷いて、宇乃は賢いからなと云った。

「私にはわからない」帯刀は空の向うへ眼をやり、ふと嘆息するような調子で云った、「父はなにか隠している」

宇乃は彼を見た。帯刀は、父はなにか心の内に隠している、と続けた。

「母を離別した理由もわからないし、あんなに親しかった松山の茂庭家や、涌谷の安芸さまと疎遠になったわけもわからない、里見十左衛門も来なくなった、――十左どのは、しんそこ父に傾倒していて、国許と江戸の往来には、必ず船岡で幾日か滞在していったし、いつも、父のためなら死も辞さないというようすだった、それが暫くまえから顔も見せない、街道を通っても、決して船岡へ寄ろうとはしないのだ」

なにかあったのだ、なにか重大なことが起こっているに違いない、と帯刀は云った。

「父は非常な重荷を負っているようだ、理由はわからないが、非常に辛い、苦しい立場にあって、それを一人で踏みこらえているように思う、私にはそう思われる」私はそれが知りたい、父の負っている重荷がなんであるか、父がどんな立場にあるのか知りたい、と帯刀は続けた、「父はお祖母さまにも話さないようだ、お祖母さまは勘づいているかもしれない、あのとおり気丈な方だ、父のことは