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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

などという、みれんなことを口にする人ではなかった。

――いっそ義絶してもらうか。

彼はそう思い、幾たびも兄にそう云いかけたが、それもあてつけがましいので、迷い迷いやめてしまった。

「こんどはいつ帰る」

北村を立つときに、兄が道まで送って来て訊いた。七十郎は、わからない、と答えた。

「こんど帰ったら、この土地でおちついてくれ、じつは嫁のはなしもあるのだ」

七十郎は黙っていた。

「おまえも三十代になる、もう身をかためておちつく年だ、父上にはそれだけがお気懸りらしい、おまえには仰しゃらなかったかもしれないが、おりにふれてぐちのようにそのことをお云いなさる」

「私はそういう気持はないな」と七十郎は云った、「まだそんな気持はない、そんな気持になるときが来るとも思われない、そんなことは諦めて下さるように、貴方から云っておいてもらうほうがいいと思う」

「そんなことがおれの口から云えるか」と善右衛門が云った、「父上は誰よりもおまえをお好きだし、おまえによって伊東の家名を世に出したいと思っておられる、御自分の夢をおまえに託しておられるのだ」

「そういうことは迷惑だし、滑稽だな」