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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

「邪険だったなんて、云えた義理じゃないわね、あんたには悪いことばかりして、三年まえにはあんな勝手なまねをして」

「もう済んだことだ」

「勝手なまねだわ、自分で新さんを悪くしておいて、こんどはまじめになれだなんて、自分の都合だけで勝手なことをしていたのよ、ごめんなさい」

「まさか泣くんじゃあないだろうな」と新八が云った。おみやは頭を振り、弱よわしく微笑しながら、まさかね、と云った。それから急に眼をあげて新八を見、気を変えるように、明るい調子で訊いた。

「あれからどうしてたの、あたしずいぶん捜したのよ」

「おれを捜したって」

「あんたをよ、石川さんたちの道場へ三度も五度も訪ねていったわ」

「あそこはあの冬に出てしまったんだ」

「みなさんそう云ってたわ、突然どこかへいってしまったって、それからどうしたの」

中年の女が酒肴の膳をはこんで来、おみやにあいそを云って、すぐに去った。

「はい、新さんから」

おみやは新八に盃をさし、酌をして、自分も盃を持った。こうして、二人で飲むのも久しぶりね、うれしい、ずいぶん逢いたかったのよ、とおみやは云った。

「それで、石川さんたちの道場をどうして出たの、今日までどこでなにをしてたの」