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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
――今後は伊達家の問題にはいっさい関係しない。
という表明には、いかにわずらわしかったか、ということがあらわれていて、甲斐はいまその項を読みながら、思わず微笑した。
六月三日には、――亀千代ぎみ登城、両後見これに従い、白書院にて将軍より、「六十二万石領知」の墨付を賜わる、と書いてあった。
「このときの家中のよろこびは大きかった」と甲斐は呟いた。
家中のよろこびは非常なものであった。亀千代が幕府から「世子」と認められたのは万治三年八月であったが、家中にはいろいろ紛争が起こるし、あらぬ流言は弘まるし、伊達家の将来がはたして無事であるかどうか、みなそれぞれに不安をいだいていた。それが、将軍家から「六十二万石安堵」の墨付を賜わったのである。――これで伊達家は安泰だ、一部の人たちを除いて、全家臣がそう思い、さかんな祝宴を催した。
「綱宗さま御逼塞このかた、初めて伊達家に夜が明けたようなありさまだった」と甲斐は呟いた。
「だがむろん、一ノ関の手はゆるみはしない、藩ぜんたいがよろこび祝っているうちにも、一ノ関は隙へ隙へと楔を打っていた」と甲斐はまた呟いた。
亀千代登城のあと、まだ十日と経たないうちに、銀座の鳩古堂を介して、茂庭周防から手紙が来た。