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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
「よろしい、預かりましょう」と七十郎は云った、「もし必要なら、松山へも写しを作って渡しましょう」
「松山へ寄るのか」
「そのつもりです」
「いや、松山へはいい」
新左衛門は首を振り、済まないが休息する、と云って立とうとした。七十郎はどうぞと会釈したが、ふと義兄を見あげた。
「ここへは、なにか用でもあったんですか」
新左衛門は、うん、といった。
「刀自に会いに来たんだ」彼はちょっと躇ったが、七十郎の顔を見て云った、「私にはまだ船岡の気持がわからない、青根で話したときは、これはもうだめだと思ったが、あとになって考えると、本心を隠していたような気がしてならない」
「彼は人が変りましたよ」
「いつか私もそう云った」
「青根の話しのあとです」
「私もそう云ったが、しかし船岡はあれだけの人物だ、そうたやすく心変りをする筈はないと思う」
「で、どうだったんです」
「わからない」と新左衛門は太息をついた、「隠居の刀自は信じきっている、だが船岡のことはなにも知ってはいないようだ」
「彼のことは諦めましょう」と七十郎が云った、「私も江戸で会って、膝詰めで話してみたんです、もしも本音があれば、本音を吐かずにはいられないところまで追い詰めました、しかしむだでした、私は原田甲斐という男をよく知っています、ほかの者にはわからないことでも、私にはわかるんです