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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
周防は自分の膝へ眼をおとし、両手の指を組み合わせた。
「伊達家はいま三大雄藩の一だ」と甲斐は続けて云った。
「もしうまく伊達家を潰すことができれば、加賀の前田や薩摩の島津へも手が付けられるかもしれない」
「そこまで考えるのは、ゆきすぎではないか」
「かもしれない、というのだ」と甲斐は云った、「従来の例では、幕府が外から揉み潰した、しかしこんどは内部から崩壊させる、という手を打っている、六十万石寸断の密約という一石から始まった動揺は、明らかにそれを示しているし、今後もその方向に動いてゆくだろう、そう思えないか」
周防は茶をすすった。それはすでに冷えていたが、周防は殆んど無意識にすすり、それから太息をついた。
「内部から崩壊させる、というこの手が、もし成功するとすれば、幕府は加賀、薩摩にも手をつけるだろう、そんなことは不可能だという証明はどこにもない、むしろ、ありうると考えるほうが自然だ」
「それで」と周防は眼をあげた、「前田家と連絡をとるというのだな」
甲斐は頷いて云った、「加費藩の留守役で奥村藤兵衛という人に、おくみの兄の雁屋信助から糸を付けた、知ってのとおり、信助は唐船をやっているので、加賀藩の抜荷船とかかわりがある、それを手掛りに、引寄せようと思う」