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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

それだけでも、事の真相は歴然たるものだが、こいつらは真相を知らず、自分ではまじめに忠誠の士だと信じている。こういうばか者には、一本みまってやらなければならない。

――面上へ一本、骨にこたえるやつをみまってやろう。

と七十郎は思った。かれらは歩いてゆき、七十郎は活溌にしゃべり続け、七兵衛はその饒舌にひきつけられていた。渡辺七兵衛を軟化させるくらい、七十郎にとってはぞうさのないことで、船迫に着いたときは、もうなんの異議もなく、柏屋という宿へいっしょに草鞋をぬいだ。

風呂で汗をながし、着替えをしてから、中庭に面した座敷で、二人は酒を飲んだ。七兵衛はたいそう機嫌をよくし、酒が進むと、自分はそこもとを誤解していた、と釈明した。

「人間はよく話しあってみなければわからないものだ」と七兵衛はきまじめに云った、「私は人の評に誤られていた、私は伊東どのをまったく違った人柄のように思いこんでいた」

「おたがいさまだ、気にするな」と七十郎は云った、「それから他人行儀などの付けはよそう、おれも呼びすてにするから、そっちも呼びすてにしてくれ、今日はゆっくり飲んで話そう」

「私は酒には強くないのだ」