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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

「何でもないよ。」

と、かれはおこったようにいって、すぐ二人を、食卓の準備されている広間に案内した。

食卓は、日ざしのいい窓ぎわに据えられており、朝倉先生夫妻のほかに、大河無門がもう卓について、三人がはいって来るのを待っていた。

「大河さんがおひとりで居残っていらしって、お風呂に水をいれていただいていたものですから、ごいっしょにお食事をしていただくことにしましたの。」

夫人は、次郎にそう言ってから、恭一と道江を大河にひきあわした。そのあとで、朝倉先生は微笑しながら、恭一に言った。

「大河君は、普通の塾生とはちがって京大を出た人だよ。専門は哲学だ。しかし概念の哲学者じゃない。孔子とかソクラテスとかいった型の、いわゆる哲人だね。今日は居残っていてもらってちょうどよかった。大いに教えてもらうんだな。」

ごちそうはさつま汁だった。あたたかい日ざしの中でそれをすすっていると、汗をかきそうだった。食後の蜜柑が、舌にひやりとして甘かった。

朝倉夫人が食卓のあとかたづけをはじめると、道江がそれを手伝った。そのあとは、またいっしょになって話がはすんだ。話題は、ひる前の空林庵での懐旧談とはちがって、人生論めいたことを中心に、民族とか、国家とか、階級とかいうことにまで及んだ。