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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

次郎は門のそとまで二人を見おくって出たが、わかれぎわになって、ふと思い出したように恭一に言った。

「ぼく、今度の期間を終わったら、ひょっとすると、ここの助手をやめるかもしれないよ。」

「え?」

と、恭一は、しばらく穴のあくほど次郎の顔を見つめていたが、

「何か失敗した?」

「失敗なんていうことはないけれど、ぼく、もっと考えてみたいことがあるんだ。」

「塾がいやになったんじゃないだろうね。」

「そんなことないさ。そんなこと――」

と、次郎はいかにも心外だというように、口をとがらしたが、

「要するに、ぼく、今のままじゃあ、不適任だという気がするんだ。」

「どうして?」

「どうしてって――」

と、次郎は目をふせたが、その視線の中には、白い足袋をはいた道江の足がはっきり浮かんでいた。かれは、あわてたようにそれから眼をそらし、

「ぼく弱すぎるんだ。自信がなくなったんだ。だから、もっと自分を鍛えてみたいんだ。」

「自分を鍛えるのに、助手をやめる必要はないだろう。やめたら、かえって――」

「ぼく、孤独になってみたいんだよ。」

「孤独に?」

「ぼく、実は、大河君がうらやましくなったんだ。大河君には、ぼくとちがって、朝倉先生のような、先生らしい先生がなかったらしい。