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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

05 第五部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 页

青空文庫

大河君の力は孤独から生まれた力なんだ。ぼくはこれまで、あんまり先生をたよりすぎて来た。だから、ぼく自身でぼくを始末する力がないんだ。」

恭一は、複雑な表情をして、しばらくだまりこんでいたが、

「しかし、塾を出て、どこへ行くんだい。」

「それは、これから考えるさ。」

「君に去られたら、先生がお困りじゃないかね。」

「助手には大河君をつかってもらえば、かえっていいと思っているんだ。大河君も、たのめばきっと喜んでやってくれるだろう。」

「ふむ――」

と、恭一は、もう一度考えこんだが、

「しかし、大事なことだ。もっとおたがいに、考えて見ようじゃないか。いずれ近いうちにまたやって来るよ。できれば、今度は大沢君をさそって来る。三人でゆっくり話しあってみよう。朝倉先生に話すのはそのあとにしたらどうだい。……まだ話してはいないんだろう。」

「むろん先生にはまだ話してないさ。こんなことを考えたの、今日がはじめてなんだから。」

「今日がはじめて? なあんだ、そうか。」

と、恭一は笑いかけたが、その笑いは、急に何かに払いのけられたように消えた。そしてつぎの瞬間には、かれの聡明そうな眼が、しずかに次郎と道江との間を往復していた。