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しょうごのさつじん

正午の殺人

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第一〇号」1953(昭和28)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,888 字 · 28 页

青空文庫

状況的にはこれが最も奇怪な一事であるが、さればと云って、これと他殺がなぜ結びつくかは証明できない。犯人にとって、女中がいると困ることがあったらしいとは考えられるが、なぜ困るかは皆目見当がつかないのである。

しかし、他殺説の法医学者は、こう云っていた。

「すくなくとも神田が生きていたのは十二時五分か十分までである。屍体の状況や解剖の結果、それ以後までは生存は考えることができない。しかるに、十二時五分から十分までのうちに二度電話がかかってきた。ここにも犯人の作為が考えられるではないか」

つまりその説の真の意味は、十二時五分から十分までの電話のかかってきた時刻に射殺されたもので、計画的な電話だとの考えであるらしかった。

ところが久子以外にその電話をきいた者がない。きいたものがいないから久子が取次にでたのであろうが、この電話を十二時五分から十分までと仮定すると、すくなくとも二度目の電話は木曾がきいていそうなものだ。

アケミと文作が玄関をでたとき正午のサイレンが鳴った。二人は坂を降る途中で木曾とすれちがっている。そこまでは二分ぐらいの道だ。木曾は自転車を押して坂道を登ったのだが、登り道にしてもそれから三四分で家へ到着したはずである。