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ぶけわらじ
武家草鞋
山本 周五郎
「松風の門」操書房、1948(昭和23)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,835 字 · 35 页
「この次からはお手間賃も少しお上げ申しますが、ご相談というのはこの緒付けでございますな、ここを少し手をぬいて頂きたいのでございます」
「緒付けの手をぬくと申すと……」
「鼻緒、後緒、中乳と、この三カ所をもう少し手軽くやって頂きたいのです」
「しかしそれでは保ちが悪くなるが」
「そこでございますよ」手代はにっと愛想よく笑った、「……あけすけに申上げるとこなた様の草鞋は丈夫すぎるのです、ご承知のようにこういう品を扱う店は、みな街道の掛け茶屋か木賃旅籠で、一足につき一文半銭の利にしかなりません、けれども草鞋は穿き捨ての消耗品で、数が出ますから儲けにもなる、だからといって弱くては買い手がつかない、そこが商売のむずかしいところでございます」手代はそこでもういちど笑った、「……こなた様のお作りになる品はまことに丈夫で評判もよろしく、東海道筋からも印付きで注文がございます、これだけ品の名が通ればあとは少しくらい手をぬいても心配はございません、丈夫に越したことはないのですが、なにしろつい先日も信濃の河内と申すところまで塩を積んでまいった馬子がありましてな、往き帰り三十里の道を一足でとおして、まだ穿けるというのですから嘘のような話でございます、これでは細かい利でやってゆく掛け茶屋などはあがったりでござりますよ」