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ぶけわらじ

武家草鞋

山本 周五郎

「松風の門」操書房、1948(昭和23)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,835 字 · 35 页

青空文庫

その男は寝そべったままにやりとした、「……内証ばなしなんで、お耳に入ったらご勘弁を願いますよ、しかしねえお武家さん、あなたもどうせ日雇取りをなさるんなら、あっし共と同じようになすって下さらなくちゃあいけませんぜ」

「拙者はできるだけそうしようと思っている、いったいどこが貴公たちの気にいらんのか」伝三郎はできるだけしずかにそう云った。

「なにたいしたことじゃありません、弁当の休みや小休みのときに、あっし共と同じように休んで下さればいいんでさ、お独りだけ精を出して貰わねえようにね」

「しかし拙者は定りだけ休んでいる、弁当のときは半刻、小休みは四半刻、定りだけちゃんと休んでいる筈だ」

「その定りが困るのさ」と別の男が云った、「……酒の一杯も呑めば消えちまうような日雇稼ぎのあっし共には、弁当休み小休みのときにちっとずつでもよけい休むのがまあ役得の一つになっているんだ、それをおまえさん独りにそう稼がれると親方の眼につく、しぜんあっし共がにらまれてせっかくの役得がふいになる勘定だ、戦場でもぬけ駆けは御法度だそうじゃあございませんか、お願い申しますぜ」

伝三郎には答える言葉はなかった、かれは黙って向き直り、崖の斜面へ力をこめて鍬を打ちおろした。