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しのふちより

死の淵より

高見 順

老いたヒトデ「風景」1963(昭和38)年11月号<br>死の淵より「群像」1964(昭和39)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,084 字 · 38 页

青空文庫

讃歌

巡礼

讃歌

あなたの頭上に飾られた讃歌がいまタンポポの種子のように飛び散って行く

春が来たからである

巡礼

人工食道が私の胸の上を

地下鉄が地上を走るみたいに

あるいは都会の快適な高速道路のように

人工的な乾いた光りを放ちながら

のどから胃に架橋されている

夜はこれをはずして寝る

そうなると水を飲んでももはや胃へは行かない

だから時には胃袋に睡眠薬を直接入れる

口のほかに腹にもうひとつ口があるのだ

シュールリアリズムのごとくだがこれが私の現実である

私にまだ食道があった頃

東パキスタンのダッカからB・O・A・C機で

インドのカルカッタへ飛んだ

機上から見たガンジス河のデルタ地帯は

超現実派の画のように美しかった

太古から流れてやまない大河の

河口のさまざまな支流が地上に描く

怪奇でモダンな線

現実の存在とは思えぬさまざまな微妙な色

自然はひと知れずその内部にシュールリアリズムを蔵しているのだ

カルカッタから私はブッダガヤへ行った

釈迦がその木かげで悟りを開いた

菩提樹が今なおうっそうと繁っていた

その葉を一枚私はみやげにつんだ

チベットから歩いて来たという巡礼団がいた

暑いインドなのに黒衣をきつく身にまとっていた