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しのこうかい
死の航海
国枝 史郎
「秘密探偵雑誌」1923(大正12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,634 字 · 18 页
海に向った大きな窓。白い敷布の涼しそうな寝台。マホガニー製の机や椅子。壁には額さえかかっている。本当に立派な室である。
若い水夫のガブリエルは毎日室へやって来ては老人相手に話をした。
「爺さんどうだね住み心地は? あんまり悪くもあるまいが」
「なんの勿体ない、貴郎様! 極楽のようでございますよ。何も彼もみんな立派ずくめでみんなピカピカ光っていて……それに第一この窓から海を見ることが出来ますので……」
「そんなにお前海が好きか!」
「これっぱかりの小さい時から海で育った私でごわす。潮は私の産湯でがすよ」
「今まで何処にいたんだい!」
「世界中を巡って居りやした。東洋の上海にも居りましたし、ストックホルムにも居りました――寒い北海の瑞典のね……そうかと思や南阿弗利加のケープタウンにも居りましたよ。パナマ運河を東へ渡ってキュバのハバナにも行きました。勿論豪州へも行きましたよ。私の行かない所と云ったらまず南極と北極だけで……」
「ご大層なことを云うじゃないか――ところで一体何の目的で、そう諸所方々歩くんだい!」
「それを云えって仰有るので!」
老人は悲しそうに訊くのであった。