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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页

青空文庫

房は、楽しみをもって引移った。

三

初めての日曜日、風の烈しく吹き捲る晴れた日であった。

房は、一吹き荒れる毎にどーっと塵埃を吹きつけ、ガタガタ鳴る露台の硝子の面を靄でもかかるように曇らして行く風勢を眺めていた。

「――こんな風――私始めてだわ」

「ここは特別なのよ何故だか」

志野は、伊達巻だけしめた上に羽織を着、下から借りて来た時事漫画を腹這いになって見ながら答えた。

「折角日曜だっていうのに、これじゃあ外へ出ることも出来やしない」

穢い硝子、穢い建物に、バッと日が明るく差し込むだけ余計塵っぽく、悩ましい。房は、隅っこの壁によりかかって、編物を始めた。腹這のまま、頬杖をついて今度はその手元を見守っていた志野が、やや暫くして訊いた。

「何編み?――それ」

「さあ、なんていうんだろ、知らないわ名は。外国雑誌から教えて下すったのよ」

「……何が出来るの」

「お嬢様のスウェター」

眺め飽きると、志野は手を延し、脇の小棚から懐中鏡をとり出した。鏡を開いて片手に持ち、片方の指で頻りに鼻毛を抜き出した。円いくくれた顎をつき出し、一心に目を据えてぐっと引張るが、なかなか抜けて来ない。