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きしゃははしる

汽車は走る

小川 未明

「日本の子供」1941(昭和16)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,849 字 · 8 页

青空文庫

ちょうど桜の花が満開であった。風の吹くたびに、ちらちらと花が散ったのを記憶している。もうすぐに、幾年めかで、その季節がめぐってくるのだ。

また、秋の運動会の日であった。それは、自分が六年生のときであったが、徒歩競争に出るのをお母さんは、やはり、あの桜の木の下に立って見ていられた。桜の幹から、校舎の窓に張り渡してある綱には、無数の日の丸の旗や、満洲国の旗や、中華民国の旗などが、つるしてあった。夏の末ごろから落ちはじめる桜の木の葉は、もはや幾らもついていなかったようだ。そして、昼過ぎから、雨がぽつぽつと当たってきたのだったが、お母さんは、いつまでも、自分の番組のすむまでは、帰ろうともされずに立っていられた。

「ああ、あの桜の木と、お母さん、そして、このお裁縫室となつかしい先生――。」

そんなことを考えると、かよ子は、もうどこへもいきたくなかった。いつまでも自分の村から離れたくないような気がしたのでありました。

「先生、私、保姆さんになりたいと思いますの。」と、一人の娘が、いいました。

「まあ、西村さんがどうしてそんなお考えをなさったの。」

先生は、やせ形の背の高い生徒の方をごらんになりました。