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さばくのびき

沙漠の美姫

国枝 史郎

「サンデー毎日」1928(昭和3)年4月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,658 字 · 14 页

青空文庫

に堪えた感傷心から詩や譜に作って弔したが、いうまでもなく出鱈目なのであった。いや自然というものは、美人の墓だから青草を生やし、醜婦の墓だから白草を生やすと、そうも不公平なものではない。自然は案外に公平で、聡明を以て任ずるところの、人間の方が却て不公平なのである。

「左様なら」と別れの挨拶をして――大した惜別の情も受けず寧ろ冷淡なあつかいの下に、私が匈奴の泰漠の国から、故郷の日本へ帰って来たのは、王昭君が死んでから、六ヶ月を経た後のことであった。その帰途に中華の詩人を訪ねて王昭君に対する意見なるものを簡単にではあったがたずねたのであった。その結果私はこんなことを思った。

「実にや詩人というものは、美の創造をするといって、物の真相を眩ませている。何んの何んの王昭君が、彼等詩人輩の想像しているような可哀そうな生活なんかしたものか」

×

沙漠の紅塵が滲み込んでいるところの、古ぼけた背広を纏いながら、今日も私は名古屋の町を、気むずかしい心持で歩いている。ビルディング、ペーヴメント、街路樹、飾窓、自動車、ラジオ、蓄音機……神経ばかりの人間が、物ほしそうに歩き廻っている。