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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
シンガポール邦字雑誌社の社長で、南洋貿易の調査所を主宰している中老人が、白の詰襟服にヘルメットを冠って迎えに来て呉れた。朝、船へは紋付の和服で出迎えて呉れたのであるが、そのときに較べて、いくらか精気を帯びて見えた。
「名物のライスカレーはいかがでしたか。とても辛くて内地の方には食べられないでしょう」
私は昼の食堂で、カレー汁の外に、白飯に交ぜる添菜が十二三種もオードゥブル式に区分け皿に盛られているのを、盛装した馬来人のボーイに差出されて、まず食慾が怯えてしまったことを語った。中老人は快げに笑って、
「女の方は大概そう云いますね。だがあの中には日本の乾物のようなものも混っていて、オツなものもありますよ。慣れて来ると、そういう好みのものだけを選めば、結構食べられますよ」
こんなことから話を解し始めて、私たちは市中で昼食後の昼寝時間の過ぎるのを待った。
叔母はさすがに女二人だけの外地の初旅に神経を配って、あらゆる手蔓を手頼って、この地の官民への紹介状を貰って来て私に与えた。だが、私はそれ等を使わずに、ただ一人この中老人の社長を便宜に頼んだ。それは次のような理由で未知であった社長を既知の人であったかのようにも思ったからである。