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うみからきたたまご

海からきた卵

塚原 健二郎

「赤い鳥 第二十一巻第五号」赤い鳥社、1928(昭和3)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,534 字 · 10 页

青空文庫

一

一

ミル爺さんは貧しい船乗りでした。若いときからつぎつぎに外国の旅をつづけてきましたので、もう今では大がいの国は知っているのでした。ところがただ一つ日本を知らなかったのです。いつも、印度を通って支那へやってくる爺さんの船は、上海で用をすますと、そこから故郷のフランスの方へ帰っていってしまうのです。

「日本へ行ってみたいな。そしたら、もう船乗りをやめてもいい。」

爺さんはながい間、海の向うにある桜の咲く小さな島国を、絵のように美しく眼にうかべながら、心につぶやくのでした。

この爺さんが、ある日船長から、今度の航海には日本まで行くことになった、ときかされたときのよろこびようたらありませんでした。

「セルゲイ、お爺さんはね、日本へ行くんだよ、日本へ。おまえには、何をおみやげに買って来てやろうね。」

爺さんは、その晩家へかえると、孫のセルゲイをつかまえて、酔っぱらいのようにいくどもいくどもいうのでした。

「ぼく、大将の着た赤い鎧がほしいなあ、かぶとに竜のとまった。」

セルゲイは言いました。いつか絵本で、日本の大将が、まえだてのついた冑と緋おどしの鎧をきて、戦争に行く勇しい姿をみたことがあったからです。