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うみがよんだはなし

海が呼んだ話

小川 未明

「日本の子供」1939(昭和14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,700 字 · 8 页

青空文庫

「海の中、どんなだい。美しい? 水の中では、息ができないだろう。」

「舟から、機械で空気を送るんだねえ、おじさん。」

「そうなんだよ。海の中は、明るくて、きれいさあ。」と、おじさんが、答えました。

「どんなに、きれい?」

「そうだな、青白く、ぼうっとして、ちょっと口にはいえないなあ。」

「いろんな魚が泳いでいるの。」

「うん、上の方には、くらげが、傘のような形をして、泳いでいるし、すこし下の岩陰には、たこが腕組みをして、考え込んでいるしな。もっと下の方へいくと、赤い魚だの青い魚だのいろいろのやつが、まるで林の中をくぐるように、藻の間をいったり、きたりしているのだ。」

「ふうん、きれいだな。水族館へいってみたようなんだね。」

「水族館って、まだ見たことがないが、たぶん同じものだろうよ。」

「おじさん、それでも、海よりか、町のほうがいいの?」

「それは、海のほうがいいさ。」

「そんなら、なぜ、町へ越してきたの?」

こう、子供たちが問うと、おじさんは、それには答えずに、ただ、さびしそうに、笑っていました。

勇ちゃんの叔父さんは、年が若く、口数は少なかったけれど、まじめでありましたから、町の人たちもだんだんこの店をひいきにするようになりました。