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きえたミジアム
消えた霊媒女
大倉 燁子
「オール讀物 四巻一一号」文芸春秋、1934(昭和9)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,605 字 · 31 页
ああいやだ――』
勝田さんの恐怖が一通りでないので、つい可笑しくなって、
『だってもう夢中でしたもの、ほんとうに死んでしまうか知らと思いましたわ。きっと人が死ぬ時はあんな声を出すかも知れませんよ』
冗談に云った積りが、どう思い違いをされたものか勝田さんは身動きもせず、私を睨んでいましたが、急にぶるぶると身体を顫わして、寒気がする、気分が悪くなったからと云って、一人でさっさと帰って行きました。後に取り残された私は呆気に取られて暫くの間その後姿を見送っていました。神経衰弱も甚しい、あれではまるで狂人だ。公使に頼まれていればこそのお相手なのに、余り手前勝手にもほどがある。と勝田さんのとった態度に頗る不快を覚えて静かな往来を一人でコツコツと帰って来たことでした。
やがてマンゴー・シャワーの季節も過ぎ、待ち焦れている雨期が近づいて来ました。それでなくてさえ健康を害している勝田さんにとっては、このしめっぽい季節は禁物だったのです。
永い雨期をこの国で過ごすことはどうにも健康がゆるしません。そこでいよいよ私共とも別れを告げなければならなくなりました。
いくら気候が悪かろうと、不自由な土地だろうと、自分には何かこの国が自由なようで気に入っているのだと、勝田さんは口癖のように云っていました。