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きえたミジアム

消えた霊媒女

大倉 燁子

「オール讀物 四巻一一号」文芸春秋、1934(昭和9)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,605 字 · 31 页

青空文庫

私はあんなに神経の尖った人を今まで見たことがありません。

またある時、水牛の浸っている堀割の傍を一緒に散歩したことがありました。水際には名も知れぬ雑草が蔓っていました。私達の靴音に驚いて、五六寸位の小蛇が草叢から逃げ出して、スルスルと堀割の中に飛び込みます。一度逃げ損なった小蛇を踏んで、それが靴の先に絡みついたため思わず勝田さんに縋りついたことがありました。すると、勝田さんも何か怖ろしいものでも見たかのように、取縋った私の両手を無理に振りほどいて、一散に駈け出しましたが、後で判ったことは、それは私が蛇を踏んだのを見て駭いたためではなく、ただその叫び声に肝をつぶしたんで馳け出したのだそうです。

やっと気が落付いて見ると、勝田さんは両手で耳を押え、眼を閉じて真青になって震えています。私の途方もない叫び声が、こんなにまで勝田さんの神経を鋭く突き刺したことかと、面目ない気がして、

『すみませんでした。余り怖かったもんで思わずあんな声を出してしまって』

と申訳のつもりで云いますと、勝田さんはまるで総毛立ったような顔をして、低い声で囁くように云うのでした。

『何て声をお出しになるんです。