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からさわのいわごやのあるよのこと

涸沢の岩小屋のある夜のこと

大島 亮吉

「登高行 第五年」1924(大正13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,010 字 · 14 页

青空文庫

って書いていたじぁないか。おそらくそうやって行って、それでもやられちゃったんだ。そこまでゆけば、あとは運命さ、なんて言ったって俺は運命だと思うよ。だから、そういうようなやつらにとっちゃあ、山登りは趣味だの、またスポートだのって思ってはいないかも知れないぜ。」

答えたひとりは、熱心に、疲れることなく言った。

「スポート、趣味、勿論そうじぁないだろう。俺だっていま現在、俺の山登りはスポートだとも思ってやしないし、趣味なんかでもないや、なんだかわからないが、そんなものよりもっと自分にピッタリしたもんだ。」

新しいひとりが暗いなかで、すぐその前の言葉を受けて、強く言い放った。沈黙が暫くつづいた。すると、

「とにかく、人間が死ぬっていうことを考えのうちに入れてやっていることには、すくなくともじょうだんごとはあんまりはいっていないからね。…………」と多くを言わずに、あとの言葉をのみこんでしまったように言ったのは、その死んだ友とそのとき行をともにした自分たちの仲間のひとりだった。彼れこそは自分たちの仲間で最も異常な経験をそのときにしたのだ。だから、山での災禍ということについては最も深い信念をば、彼れは特に自分たちに比してもっているわけだ。