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しんやのきゃく
深夜の客
大倉 燁子
「モダン日本 九巻一三号」1938(昭和13)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,926 字 · 28 页
と云う。思いなしか仙ちゃんは熱っぽい声で袈裟御前が首を落されるあれ、何とか云ったなと云うと、鳥羽の恋塚よ、と冬子は朗らに笑いました。妻は幼少の頃から長唄を習い、相当自信があるようでしたが、譲治はオルガンは好きだが、三味線は嫌いだったので決して弾くな、と言い渡してあったのです。その代りにグランドピアノの立派なものを買ってやったのです」
「それじゃ譲治さんがほんとに冬子さんを愛していたものとは思われませんね。少し思いやりがなさ過ぎる、自分の思うままにしようとするような男を、女は愛すでしょうか」と洋子はちょっと首を傾げた。尾越も同意するように微笑した。
「とにかく、譲治は自分の禁じていた三味線を弾いているという事からして腹が立った。しばらくすると、冬子は澄んでいい声で唄い出しました。
『さるほどに遠藤武者盛遠は、春も弥生の始めつかた霞がくれの花よりも、床しき君の面影を、見初めし緑のはし供養、あけくれ絶えぬおもい川、恋わたる身はうつつなや――』
そこまで進むと、突然、仙ちゃんが感傷的な声で、僕ね、明日また航海に出るんだ、冬ちゃんの鳥羽の恋塚を吹き込んでもらおうと思ってレコードを持ってきたよ。