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しんやのきゃく
深夜の客
大倉 燁子
「モダン日本 九巻一三号」1938(昭和13)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,926 字 · 28 页
洋子は当惑した。
「しかし、証拠は何一つないのでしょう?」
「証拠はレコードに残っています」
「そのレコードは――、もうないのでしょう?」
「それが不思議な事で私の手に入ったのです。それで急に彼の約束を果す日が来たと思い、脱獄したわけなんです。――私の仲間がある屋敷に強盗に入り、偶然盗んだ着物の間から一枚のレコードが出た、家へ帰ってかけてみたら迚も物凄かったので、毀すのも薄気味が悪いから、納める積りでお寺の縁の下へかくしておいた、という話を聞いたのです」
「強盗に入った屋敷というのはどこです?」
「沼津の有松武雄の家なんです」
「それでは――」尾越はにっこりして、
「有松を殺害したのは私です。実はこの前脱獄した時、彼を訪問して譲治の話をしてやりました。有松は両人を殺害したのは自分だと白状しましたから、潔く自首しろと薦めました。彼も必ず自首すると誓ったにかかわらず今日まで実行しませんでした。多分、私が間もなく捕えられて刑務所へ入ったと聞いて、安心してしまったのでしょう。ところが今度の脱獄をニュースで知ってから、すっかり脅えてしまい、私を捕えるようにお願いする積りで、先生へ長距離電話なんかかけたのでしょう」