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りょうしのむすめ
漁師の娘
徳冨 蘆花
「家庭雑誌」1897(明治30)年1月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,592 字 · 23 页
いやもう言われぬ。
此の絶景を占領して居る万作が家は主人だけ無風流だ。歌に詠んでこそ海人が家だが、内はしきりもない一間に炉を切って、煤だらけな自在をかけ、其処らじゅう漁の道具何かで一ぱいだ。家の後は壁一重にすぐ鶏や鶩の小屋があって、朝夕は中々かしましい。東が白むと万作一家三人直と起きて、霞が浦の水掬いあげて顔を洗って、日輪さまを拝んで、それから鳥屋を明けて鶩を出してやるのがお光の役で、万作は時節相応鯉鮒鰻などの釣に出掛けることもあれば、網曳に雇われて行くこともあり、時々はまた鴨を猟りに行くこともあり、さもなければ裏の畑に麦蒔き大根作ることもある。薪取り草取り縫針飯炊は婆の役で、お光は時々爺と一処に、舟に乗って行くこともあれば、ひとり勝手に遊ぶこともある。夜は万作は大概寝酒に酔ってしまい、さもない時は草履を作ったり簑を織ったり、母は薄暗い行燈のかげでつづれをさしたり、網の繕をしたりすると、お光は学校已めて後も矢張手習読書をせっせと勉強する。誰が心をつけるのであろう?
お光の身体は万作夫婦の手で育ったが、お光の心を育て上げたものは筑波と霞が浦だ。山は天気予報、水は魚類の動静を見る外には、霞が浦が如何あろうと筑波がこうあろうと頓着もない万作が眼には何も見えぬが、お光の眼には、四季刻々うつりかわる景色が如何様に