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はなかみろうにん

濞かみ浪人

吉川 英治

「サンデー毎日 新春特別号」毎日新聞社、1938(昭和13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,425 字 · 39 页

青空文庫

それからなら、われわれも止めはせぬ。われわれとても、お咎めを待たねばならぬ』

数右衛門は、やや落着いて、

『そうかなあ……』

『そうしてくれ、そうしてくれい……。あっ? ……蹄の音、藩邸からもう早馬だ。数右衛門、必ず待ってくれよ』

ばたばたと、廊下へその同僚が出て行くと、すぐその者を案内して、藩邸から駈けつけて来た大高源吾が、息をきりながら入って来た。

源吾は、彼のすがたの無事を見ると、ほっとしたように、すぐ上意を伝えた。

『数右衛門、そちは何処まで倖せな者であろう。殿のお言葉には、そちに託した一札は、御書面ではなく、お手近の文庫より見出された松山城の絵図面であるとの仰せ。――松山城に城受取りの任を帯びて出向いておる内蔵助殿にとって、何かの参考にもなろうかと、そちを遣すついでにお托し遊ばされたのじゃ。お墨付ではない。従って、失うた粗骨は不届きなれど、反古一枚で、人命一つを失うては、なお勿体ないと、有難いおことばだ。――反古と仰せられたからには、もはやおゆるしと承知してよかろう。遅滞せずに、すぐこの便船で出立せい』

『…………』

数右衛門は、何と云ってよいのか、到底、言葉には、胸いっぱいの感情を――その一端でも、あらわす事はできなかった。