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ひのついたかかと
火のついた踵
宮本 百合子
「中央公論」中央公論社、1922(大正11)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,781 字 · 34 页
振一郎 判らないことはない。あなたは僕のことなんか忘れて、愉快にすればいいんだ。その方が、僕にとったって、どの位呑気(のんき)だか判らない。
みさ子 (疑わしそうに、良人を見)そう? ほんとに?
振一郎 (力を入れ)ほんとにそうだとも! 若し僕が暇で気が向いたら、いつでも出て来て仲間に入ればいいでしょう?
みさ子 そうならほんとにいいわ。(嬉しそうに)じゃあ、後で出て下さること?
振一郎 いつ? 今日?
みさ子 (勿論と云うように)そうだわ。
振一郎 判らない。まああなただけで接待していてくれ。
みさ子 ――それじゃあ同じだわ……ああほんとに(椅子を立ち、歩き出しながら嘆息する)
振一郎 (気にし)どうしたの?
みさ子 (凝(じ)っと、憂わしげに良人を見る)私共の処でさえこうなんだから、よその奥さんが、自分のお友達さえ呼ばなくなるのは無理もないと思ったの。
振一郎 物事を、何でもそう悪意にとるものじゃあない。僕の云う真意を諒解しなければ、いつでも、詰らない衝突を起すばかりじゃあないか。
みさ子 (熱心に)ほんとに、私も私の心の奥の奥が判って頂きたいわ。理屈じゃあなく、私の感じることを、貴方の胸で感じて頂きたいわ。