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ひのとり

火の鳥

太宰 治

「愛と美について」竹村書房、1939(昭和14)年5月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,740 字 · 76 页

青空文庫

さちよは、ひとりで大笑いした。見ていると、まるで二匹の小さい犬ころが雪の原で上になり下になり遊びたわむれているようで、期待していた決闘の凛烈さは、少しもなかった。二人の男も、なんだか笑いながらしているようで、さちよは、へんに気抜けがした。間もなく、助七は、ひっくりかえり、のそのそ三木が、その上に馬乗りになって、助七の顔を乱打した。たちまち助七の、杜鵑に似た悲鳴が聞えた。さちよは、ひらと樹陰から躍り出て、小走りに走って三木の背後にせまり、傘を投げ捨て、ぴしゃと三木の頬をぶった。

三木は、ふりかえって、

「なんだ、君か。」やさしく微笑した。立ちあがって、さっさと着物を着はじめ、「君は、この男を愛しているのか。」

さちよは、烈しく首を振った。

「それじゃ、そんな、おセンチな正義感は、よしたまえ。いいかい。憐憫と愛情とは、ちがうものだ。理解と愛情とは、ちがうものだ。」言いながら、身なりを調い、いつもの、ちょっと気取った歴史的さんにかえって、「さあ、帰ろう。君は、君の好ききらいに、もっとわがままであって、いいんだぜ。きらいな奴は、これは、だめさ。どんなに、つき合ったって、好きになれるものじゃない。