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はいかぐら
灰神楽
江戸川 乱歩
「大衆文藝」1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,262 字 · 27 页
だが、起き上ってどうしようというのだ。彼は思い直して又蒲団の中へもぐり込んだ。そして、すぐ側に怖いものでもいる様に、頭から蒲団をかぶると、身を縮めてじっとしていた。
一時間ばかりの後(その間彼がどんな地獄を味ったかは読者の想像に任せる)彼はそそくさと起き上ると、着物を着換えて外へ出た。茶の間を通る時、宿の主婦が声をかけたけれど、彼は聞えぬのか返事もしなかった。
彼は何かに引きつけられる様に、恋人の所へ急いだ。今逢って置かなければ、もう永久に顔を見る機会がない様な気がするのだ。ところが、一里の道を電車に揺られて、彼女を訪ねた結果はどうであったか。そこにも亦、恐しい疑いの目が彼を待っていたのだ。彼女は無論事件を知っていた。そして、日頃の事情から推して、当然庄太郎に一種の疑いを抱いていた。実はそうではなかったのかも知れないけれど、脛に傷持つ庄太郎には、そうとしか考えられなかった。第一に、追いつめられた獣物の様な庄太郎の様子が、相手を驚かせた。それを見ると彼女の方でも青ざめた。
折角逢いは逢いながら、二人はろくろく話を交すことも出来なかった。庄太郎は相手の目に疑惑の色を読むと、其上じっとしてはいられなかった。