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はいかぐら
灰神楽
江戸川 乱歩
「大衆文藝」1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,262 字 · 27 页
正面は茂った木立を通して、塀の向うに広っぱがあり、そこに、数名の青年が鞠投げをやっているのがチラチラと見えていた。彼等は何も知らないらしく、夢中になって遊んでいた。秋の空に、鞠を打つバットの音が冴えて響いた。
彼は、これ程の大事件を知らぬ顔に、静まり返っている世間が、不思議で耐らなかった。「ひょっとしたら、俺は夢を見ているのではないか」そんなことを考えて見たりした。併し振り返ると、そこには血に染った死人が無気味な人形の様に黙していた。その様子が明らかに夢ではなかった。
やがて彼は、ふとある事に気づいた。丁度稲の取入れ時で、附近の田畑には、鳥おどしの空鉄砲があちこちで鳴り響いていた。さっき奥村との対談中、あんなに激している際にも、彼は時々その音を聞いた。今彼が奥村を打殺した銃声も、遠方の人々には、その鳥おどしの銃声と区別がつかなかったに相違ない。
家には誰もいない、銃声は疑われなかった。とすると、うまく行けば彼は助かるかも知れないのである。
「早く、早く、早く」
耳の奥で半鐘の様なものが、ガンガンと鳴り出した。
彼はその時もまだ手にしていた拳銃を、死人の側へ投げ出すと、ソロソロと階段の方へ行こうとした。