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はいかぐら
灰神楽
江戸川 乱歩
「大衆文藝」1926(大正15)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,262 字 · 27 页
併し、もうぐずぐずしてはいられない。第二の難関が待っているのだ。彼が無事に門の外へ出るまでに、使いに出された婆やが帰って来るか、それとも他の来客とぶっつかるか、そんなことがないと、どうして断言出来よう。彼は今更そこへ気がついた様に、慌てふためいて階段をかけおりた。途中で足が云う事を聞かなくなって、ひどい音を立てて辷り落ちたけれど、彼はそんなことを殆ど意識しなかった。そして、まるで態との様に、玄関の格子をガタピシ云わせて、やっとのことで門の所までたどることが出来た。
が、門を出ようとして、彼はハッと立止った。ある重大な手抜りに気づいたのだ。あの様な際に、よくもそこまで考え廻すことが出来たと、彼はあとになって屡々不思議に思った。
彼は日頃、新聞の三面記事などで、指紋というものの重大さを学んでいた。寧ろ実際以上に誇張して考えていた程である。今まで握っていたあの拳銃には、彼の指紋が残っているに相違ない。他の万事が好都合に運んでも、あの指紋たった一つによって、犯罪が露顕するのだ。そう思うと、彼はどうしても、そのまま立去ることは出来なかった。もう一度二階へ戻るというのは、その際の彼に取って、殆ど不可能に近い事柄ではあったけれど、彼は死にもの狂いの気力を奮って、更に家の中へ取って返した。