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むもうだん

無毛談

坂口 安吾

――横山泰三にさゝぐ――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,319 字 · 17 页

青空文庫

たゞごとではない。私は妹に云った。

「これは意地強情とか、ヒネクレ根性というだけじゃないよ。あいつ、男があるんだよ。男の便りを待ってるのだろう」

「じゃア、兄さんとおんなじじゃないの。ころあいのサヤアテでしょう。それにしても、熱病患者の兄さんが敗北するとは、おトンちゃんの情熱は凄いわね」

妹も、どうやら、おトンちゃんの恋人説を信じたようだ。

どんな人? いくつ? ショウバイは? どこにいる人? それとなくきいてみるが、返答しない。

「きっと、深いワケがあるのよ」

「なぜ」

「あの沈鬱、たゞごとじゃないわ。だから、たとえば、その恋人は、刑務所かなんかに居るんじゃないかしら」

「ふうむ」

これも、一説である。

すると、妹は、もう、それにきめてしまった。名察に気をよくして、益々おトンちゃんをいたわり、ヒイキに、可愛がってやっていた。

★

私は五十日ほど旅行にでた。風流な旅行ではなかった。

帰ってみると、母と妹はそのまゝだが、近所の農家の娘が手伝いに来ており、おトンちゃんの姿がない。

「おトンちゃん、どうした」

ときくと、食事を途中にして、妹は急にサッと顔色を変え、苛々と癇癪の相をあらわし、プイと立って、どこかへ行ってしまった。