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ぎゅうにゅうとうま
牛乳と馬
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,248 字 · 25 页
彼は馬から降りて、満足そうに牛乳の一升瓶を見せたが、わたしには渡さなかった。
「その辺までお伴しましょう。」
こんどは、いやに丁寧だ。わたしは少し戸惑った。ぶらぶら歩いた。彼はわたしと並び、手綱のあとから馬がついてくる。時々大きな鼻息をするのが気味わるく、虚勢を張らねばならなかった。
「お宅は、三浦さんと仰言るんですね。」
わたしはびっくりして見返した。
「あの茶店で聞いてきたんです。すると、三浦春樹君の妹さんですね。」
「あら、兄を御存じでしたの。」
「亡くなられる前に、なんどもお逢いしたことがあります。あなたは秋子さんと仰言るんでしょう。どうも、似てると思っていました。」
わたしは黙っていた。わたしはお兄さまにはあまり似ていないのである。それとも、他人から見れば、やはり似てるところがあるのかしら。
「夏子さんはどうしていらっしゃいますか。」
わたしはまた彼の顔を見返した。
「みんなの名前を、御存じなんですの。」
「いや、当推量ですよ。春樹さん、秋子さん、だからその間は、夏子さん……。」
彼はそう言って笑ったが、どうも、へんにあやふやなのだ。真面目なのか冗談なのか、見当がつかなかった。