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カラスキーしのゆうじょう

犂氏の友情

久生 十蘭

「オール讀物」1939(昭和14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,312 字 · 27 页

青空文庫

思うに、石亭先生は、例の向う気から、大風呂敷をひろげた手前、否応なしに盗人の先陣をうけたまわることになってしまったのらしい。

先生の訪問の目的はこうだった。

今になって破約をしたら、どっちみち、只ですむわけはない。向うとしては、場所まで打ち明けてしまったのだから、わたしが変心したと知ったら、たぶん生かしてはおくまい。あの気狂いじみた、殺伐な男のことだから、その危険は充分にある。大人は豹変す、の筆法で、わたしは「本郷バー」へ帰らずに、このままどこかへ蒙塵してしまうつもりだが、なんとしても心がかりなのは、あちらへ残してきた調査資料で、長年の努力の結晶をあのままあそこへ放っておくわけにはゆかないから、田舎にいた甥がとつぜん叔父を訪ねてきたていにでもして、しばらく、わたしの部屋で寝泊りし、ゴイゴロフに覚られぬように、折を見て少しずつ持ち出してきてもらえまいか、というのだった。

先生は、丸まっちい肩を昂然と聳やかすようにしながら、

「ねえ、そうでしょう。退歩説の実例を挙げるために、わたし自身が殺されるのでは、これぁイミないですからねえ!」

といった。

二