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ろうしつき

狼疾記

中島 敦

「南島譚」1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页

青空文庫

という・小さい者の恐怖から生れた・棄鉢的な強い願望だった。こうした願いにもかかわらず、彼は成長するにつれ、第一の望の実現はもとより、それより更に強い第二のそれの実現もまた望のないものであることをはっきりと――余りにも恐ろしくはっきりと知らされて来た。世界も、人間の営みも、この少年の望むほど、しかく確乎たるものではない。それは小学校の先生に聞かされた世界滅亡説を熱力学の第二法則という言葉に置換えて見ても同じことだし、そうした単純な科学による世界考察を無視した・全然別の側からの世界評価によってもまた同じことだと彼には思われた。即ち、頭の中だけで造り上げられた少年の虚無観に、今や、実際の身辺の観察から来た直接な無常観が加わって来たのだ。麾下数万の軍勢を見渡しながら、百年後にはこの中の一人も生残っていないであろうことを考えて涕泣したというペルシャの王様のように、この少年は、今や、自己の周囲の凡てに「限られたるもののしるし」を認めて胸をさされるのであった。物についてばかりではない。とりわけ、どのようなまことの愛情でも、それが他の極めて詰まらないものと同様に果敢なく消えて行くことに、彼は身を焼かれるような烈しい悲しさ寂しさを感じた。