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ろうしつき
狼疾記
「南島譚」1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页
かかるのだが、鉱石の中から乏しい金属を抽出するように、それをよく聞分けて見れば、確かに右のような意味になるのである。何だかモンテエニュでもいいそうなことのように思われ、三造はまた前とは違った意味でM氏の顔を見返した位だが、M氏は読書家ではないから決して書物などからこんな考えを仕入れて来たのではない。五十年の生涯の遅鈍な観察から生れた・彼自身の感想に違いない。こうした言葉を吐きそうな智慧の痕跡のおよそ窺われないM氏の顔を見ながら、三造は次のように考え始めた。
誰もがこの男を馬鹿にしているけれども、我々が、もしこの男ののろまな表現を理解してやるだけの忍耐を有つならば、今この男が吐いた感想位の思想は、常に彼の言葉の随所に見出せるのではなかろうか。ただ我々の方にそれを見出すだけの能力と根気とが無いだけのことではないのだろうか。更に、その鈍重・難解な言葉をよくよく噛分けている中には、我々にも、この男の愚昧さの必然性が――「何故に彼が常にかくも、他人の目からは愚かと見えるような行動に出ねばならないのか、」の心理的必然性がはっきりのみ込めて来るのではないだろうか。