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ろうしつき

狼疾記

中島 敦

「南島譚」1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页

青空文庫

そうなって来れば、やがて、M氏がM氏でなければならぬ必然さと、我々が我々であらねばならぬ必然さとの間に――あるいは、ゲーテがゲーテであらねばならなかった必然さとの間に――価値の上下をつけることが、(少くとも主観的には)不可能と感じられてくるだろう。現に、M氏は先刻の感想の中で、明らかに、自分を上の階段まで達しているものとし、彼を嘲弄する我々を、「下の階段にいながら上段にいる者を哂おうとする身の程知らず」としているに違いない。我々の価値判断の標準を絶対だと考えるのは、我々の自惚に過ぎないのではないか。(このM氏の例を、類推の線に沿うて少し移動させて考えれば)同様に、我々がもし犬だの猫だの、そうした獣の・言葉やその他の表現法を理解する能力を有つならば、我々にも、彼ら動物どもの生活形態の必然さを、身を以て、理解することが出来、また、彼らが我々よりも遥かに優れた叡智や思想を有っていることを見出さないとは限らないであろう。我々は、我々が人間だから、という簡単な理由で、人間の智慧を最高のものと自惚れているだけのことではないのか。……

酔の廻った頭に、ものを考えるのが億劫になって来ると、結局落着く先は、いつもの「イグノラムス・イグノラビムス」