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ろうしつき
狼疾記
「南島譚」1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,540 字 · 47 页
である。三造は何かに追掛けられたように、あわてて、ぐいぐいと三、四杯立てつづけにあおった。すいっちょは夙うに何処かへいなくなっている。M氏も大分酔ったらしく、眼を閉じて、しかし、まだ口の中で何かもごもごいいながら、後の柱に倚りかかっている。
五
ふん、まだ三十になりもしないのに、その取澄ました落著き方はどうだ。今から何もムッシュウ・ベルジュレやジェロオム・コワニァル師を気取るにも当るまいではないか。世俗を超越した孤高の、精神的享受生活の、なんどと自惚れているんだったら、とんだお笑い草だ。行動能力が無いために、世の中から取残されているだけのことじゃないか。世俗的な活動力が無いということは、それに、決して世俗的な慾望までが無いということではないんだからな。卑俗な慾望で一杯のくせに、それを獲得するだけの実行力が無いからとて、いやに上品がるなんざあ、悪い趣味だ。追いつめられた孤立なんぞは少しも悲壮でなんかありはしない。それから、もう一つ。世俗的な才能が無いということは、決して、精神的な仕事の上に才能があるということにはならないんだからな。決して。