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ねこはち

猫八

岩野 泡鳴

「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页

青空文庫

失礼な申し分ではございますが、まったく張り合いがない、どッと来べきところをでも皆様がたはおすましになっておられます」

「そりゃ生活がまるで違ってるから、ね」

「そうでげしょう、な」彼はさすがに学問ある人の仲間は違うものだと考えられた。こちらが自分で実際に当ってきながら、しかも自分では説明しきれなかったことをも、彼らのうちではたッた一言で分らせてくれた。本統に上つ方と自分らとの生活がまるで違ってるのだ。暮し方に月と鼈との相違がある。

こう思って、自分は自分らの裏長屋の事を心に浮べていた。とッつきが怠けがちの鍛冶屋で、いつもその山の神に怒鳴られてる。その次ぎが女髪結いで、男が何人代ったか分らない。その隣りが自分の家で、そのまた次ぎには電車の車掌がいて、人のまだよく眠ってる時からがたッぴしやりだして、ちんちん屋の商売に出て行きゃアがる。そしてどん詰りには、目ッかちで跛足の蜆屋がいる。夏は皆ほとんど真ッ裸かの社会であるが、そのうちでも人間らしいのはまず自分のところばかりだ。百姓はほんの自分の片手間仕事だが、それでもそこにあのがりがり妄者どもの知らぬ余裕がある。