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ねこはち

猫八

岩野 泡鳴

「大阪毎日新聞」1918(大正7)年9月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,513 字 · 39 页

青空文庫

今夜はひとつ、晩飯をすませるとすぐ、自分はふんどし一つになり、子供に提灯を持たせて畑に行き、十分に根切り虫の退治をやってやろうと考えられた。

すると、この時、小大仏の先生が目を見ひらいて、

「今夜は、もう、用がなかろう」と尋ねた。

「へい、高座は二個所すましてまいりましたが――」これでは自分の返事が足りないようにも思えたので、彼は向うの意味を汲み取って、「どこかうまいところへお伴できますか、な?」

「なアに、どうせうちへ帰って寝るだけのことなら、どうだ、おれについてこないか?」

「まいりましょう――あなたのお指図なら、どこへでも」どこ、華厳の滝までもという歌を――思わず――口もとまで思い浮べた。

「ある文士たちの研究会だが、ね、聞いていてためにならないことでもない。これから行けば、もう、たッた二時間の辛抱だ。そのあとはお前の世界にしてやるから」

「そりゃアおもしろいでしょう、な、わたくしも後学のためにお伴いたしましょう」そうは軽い気持ちで答えたけれども、今しがたやッと下してきた重荷を今夜また今一度背負わされはしないかということを案じられた。自分には、毎晩組合の義務を果して帰るさの電車の中ほど軽い身心になってる時はほかにないのである。