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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

06 一九三九年(昭和十四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 374,755 字 · 745 页

青空文庫

丁度十六日につきました由、よませて貰いました。よく分らないが北支の方面のようです。二十日に又会いにお母さんと御一緒にゆきます。二十一日の宇品はそれこそ人波の押しを私の気の押しでは支え切れないから、却ってあぶなくていけないから行かず。Kという運転手がゆきます。

達ちゃんも無事。近々坂田部隊というのと合一して大作戦がある予定の由。お母さんのところへ来る手紙、こまかに隆ちゃんに持たせてやるもののこと、自動車の車体検査についての注意等、大変はっきりと明晰に書いて来て、すっかり大人らしくなって感じられます。水のせいか何かで歯が三本虫くいになっている由、それを直すに送金してほしい由、きょう飛行便でお金と隆ちゃん出発の知らせお出しになりました。

この手紙は、表通りに近い方の部屋で書いています。上ったばかりのところには、Kというのが、自分の机をキチンとおいて、その机の下にトランクをチャンと入れて、机の上にアザリアの桃色の花を飾って居ります。だから私はこっちの部屋。でも正直なところすこし寂しいの。私のいたところ、いるつもりのところにひとがいるから。でも、うちとすればこのKが几帳面によくやっているからというところがあって、お母さんも丁寧に口を利いていらっしゃいますし、そうやって置いていいのです。