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りそうのおんな
理想の女
豊島 与志雄
「新小説」1920(大正9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页
「勝手にするがいい!」
そう私は云いすてて、階下へ下りて行った。みさ子はすやすや眠っていた。私は堪らなくなって、着物のまま蒲団の中へもぐり込んで、夜着を頭から被った。頭が熱くなっていて、足先がぞくぞく冷たかった。傍の蒲団の中に寝ている秀子の姿を見出したのは、翌日眼を覚してからだった。
そして、私達は朝から口を利き出した。然しそれは、如何に冷かな用件のみの言葉だったろう! 二人の間に深い溝が掘られたことを、私は感じた。激しい喧嘩の末、私達は二三日言葉を交えないことがあったが、それでもそういう反目は、お互に一つの根で繋ってるという意識から来る苛ら立ちで、繋りながら争ってるという苛ら立ちで、助長せられたものであった。所が今や、二人を結びつける根が断たれたような冷かさが、互に別個なものになったというような無関心さが、二人の間に挾まってきたのである。濡いのない言葉――感情の籠らない言葉を、互に時々交しながら、或る破滅を期待する恐れで、心を固く鎖していた。
それが私には堪え難かった。家庭に於ける彼女の圧迫から来る息苦しさは、前方に破滅を予期する息苦しさに変っていった。