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りそうのおんな

理想の女

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,162 字 · 77 页

青空文庫

而も彼女の弁解――あの場面の中心問題――に再び触れることは、益々お互の心を遠ざけるもののように感ぜられた。「どうにでもなるようになれ!」そう私は半ば悲壮に半ば捨鉢に考えては、やはり外へ飛び出すのであった。私の心の底に、彼女と別れてそう惜しくはないという気持ちが流れているのを、私はまだ気付いていなかった。家に帰って来ると或る不安な恐れが私を囚えた。然し彼女は家の中に澄し込んでいた。道子のことをも再び云い出さなかった。

私の足は長谷川の家から次第に遠のいていった。人から疑われることによって却って心が唆られる例は、よくあるものだけれど、私にはそういう暗示は更に働かなかった。余りに馬鹿々々しい気がした。問題は道子一人に在るのではないような気がした。そうだ。道子もその中の一人ではあったが、問題は道子一人に在るのではなかった。それでは誰に?……自ら尋ねてみて私は駭然としたのである。

市内を彷徨してるうちに、私の眼は行き逢うあらゆる女に向けられていた。而もそういう私の眼は単なる路傍の人を見る眼とは違っていた。あらゆる異性の方へしたい寄る青春期の眼、慌しい而も執拗な、恥かしげな而も厚かましい、内気らしい而も露骨な、自分と相手とをすぐに真赤ならしむるような熱っぽい眼、それと同じものだった。