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せいしまんじどもえ
生死卍巴
国枝 史郎
「雄弁」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,598 字 · 182 页
「さようかな」
と、茅野雄であったが、軽蔑したように軽く受けた。
「郷民達が怒る前に、貴殿が怒るでございましょうよ」
「…………」
「と云うのは貴殿こそ浪江殿に対して、恋心を寄せておられるからで」
これには弦四郎も鼻白んだようであったが、負けてはいなかった。
「いかにも某浪江殿を、深く心に愛しております。覚明殿にも打ち明けてござる。と、覚明殿仰せられてござる。『白河戸郷を滅ぼしたならば、浪江を貴殿に差し上げましょう』とな」
「ほう」と、茅野雄はあざけるように云った。
「覚明殿が許されても、肝心の本人の浪江殿が、はたして貴殿へ行きますかな?」
するとその時まで沈黙して、次第に闘争的感情をつのらせ、云い合っている二人の武士の、その言い争いを心苦しそうに、眉をひそめて聞いていた浪江が、優しい性質を裏切ったような、強い意志的の口調で云った。
「妾は品物ではございません。妾は人間でございます。妾は妾の愛する人を、妾の心で選びますよ!」
で、茅野雄も弦四郎も白けて、しばらくの間は無言でいた。
ここは小川の岸であって、突羽根草の花や天女花の花や、夏水仙の花が咲いていた。小川には水草がゆるやかに流れ、上を蔽うている林の木には、枝や葉の隙から射し落ちて来る日の光に水面は斑をなして輝き、底に転がっている石の形や、水中を泳いで行き来している